原状回復特約「全面新品張り替え」、その特約は有効か?
原状回復費用を495万円→171万円に削減(削減率35 %)
天井資材を全面張り替え、損傷していないグリッド天井まで新品に張り替える法的根拠はあるのでしょうか?
改正民法を指針とすれば、天井・境界壁の新規交換の法務根拠はありません。スーパーグレードビルの天井は、すべて新品に張替えする契約書となっていることがありますので注意が必要です。
物件データ
物件名 | 仙台駅前Aヒルズ10階 53.72坪〈区画〉 |
賃借人 | ココネ株式会社 |
賃貸人 | M信託銀行株式会社 |
PM | M地所系列PM株式会社 東北支店(以下、MPM) |
指定業者 | T建設株式会社 東北支店(以下、T建設) |
敷金 | 1,805万円 |
原状回復適正査定 | 320万〜330万円 |
敷金返還(原状回復費を敷引き) | 1,481万円 |
原状回復費用の推移
※全て総額表示(小数点第一位四捨五入)
初回見積金額 | 495万円 |
合意金額 | 324万円 |
削減額 | 171万円 |
削減率 | 35% |
エリア | 仙台 |
本件の経過
隣のテナントに設置された空調のリモコンと自動制御システムにより、自社内で温度・湿度の調整ができないため、オフィスを移転することになりました。管理会社指定業者の見積もりが坪単価92,000円と高額だったため、なんとか費用を抑えることができないかと「原状回復コンシェルジュ」というWEBサイトを運営しているプロトライブ株式会社に相談したところ、業界No.1の信頼と実績を有する一般社団法人RCAA協会会員(株)スリーエー・コーポレーション(以下、3AC)を紹介されました。
協議方法と結果(原状回復費324万で円満合意、敷金返還は1,481万円)
- 契約書には「システム天井ボード全て交換」と記載されていた。(T建設の見積もりではそれだけで130万以上になっていた)
この工事の根拠は、「賃貸借契約書に約定されていた」ではあるが、3ACの専門家や弁護士は、原状回復の定義を逸脱しているのではないかという主張であり、改正民法第621条を考慮した結果、全面張り替えは無効であるとの意見を述べた。 - 区画形成部分の境界壁に関しても、見積を確認すると全て交換であった。しかし、これも法務根拠はない。
- 仮設工事については、今回の規模であれば足場などは必要ない。
- 電気設備工事について、本建物の原状回復基準資料に記載されている通り、インターホン、入退去設備工事は移設をしていないのでクリーニングのみとする。
- 仮設、諸経費、管理費について、旧四会連合約款の指導する見積方法として、仮設工事、直接工事、諸経費を現場施工管理とセグメントを計上した。
上記内容をリーガルレターにまとめ、弊社査定の見積書、議事録と併せてM信託銀行、MPM、T建設の担当者及び決済者に通知書を送った。
結果として、ビル側より査定書通り340万円の回答があったが、3ACより324万円であれば合意すると返答したところ、翌日324万円で調整可能と回答があり円満合意となりました。
カーテンレール、パーテーションの撤去、LAN、コンセント工事はテナント側にて工事手配することになりました。
改正民法第621条で原状回復の定義・範囲・工事内容の明文化は貸主の責任と定められました。そのため大手信託銀行、大手デベロッパー、スーパーゼネコンの貸主側が何でも張り替えの原状回復特約にします。
しかし原状回復の定義としては、本来ビル側の資産でありながら借主の費用負担で新品交換することは、明らかに原状回復義務を逸脱しています。これが協会と3ACの統一所見でした。
合意後、原状回復費を敷金から差し引いた、敷金1,481万円が速やかに返還されました。
執筆者・担当コンサルタント
コンサルタント 山田 貴人
「中小規模オフィス・店舗専門 原状回復・敷金返還相談センター」を開設。原状回復査定員として、日々、経営者の相談に向き合っている。
YouTubeで実例解説を行い、社会に原状回復問題を発信している。
「原状回復・敷金返還相談センター」 山田が真摯にご相談に乘ります!