【第12回】改正民法「原状回復義務の範囲の明文化」

改正民法「原状回復義務の範囲の明文化」

120年ぶりの民法改正となりました。今回の解説は、2019年独立行政法人国民生活センターに寄せられた「原状回復に伴う、敷金返還トラブル」7095件について、原因と対策を解説します。

建物賃貸借において一番苦情、そしてトラブルが多いのは、退去明渡し時の原状回復範囲、負担割合に伴う原状回復工事費高騰問題です。住宅の場合は、「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版2011年8月) 」が指針となりました。賃料保証の活用で住居では高額な敷金の預託も減少傾向ですが、ここでは一番相談の多い中小企業、個人経営の事業用不動産の原状回復義務と敷金返還について実例をまじえて解説していきたいと思います。

コロナ感染症も終焉に向かっており、原状回復義務を履行して正当な敷金返還の権利を行使して下さい。

借主の原状回復義務の範囲の明文化

今回の民法改正では、「誰が原状回復義務を負うのか」が明文化されました。

【民法621条】(賃借人の原状回復義務)
賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷(通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年の変化を除く。以下この条において同じ。)がある場合において、賃貸借が終了したときは、その損傷を原状に復する義務を負う。ただし、その損傷が賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。

引用:民法621条(賃借人の原状回復義務)
原状回復の範囲貸主負担または借主負担
通常損耗貸主負担
貸室の経年劣化・経年変化貸主負担
借主に帰責事由のない損耗貸主負担
特別損耗借主負担

改正民法とは異なる原状回復特約の有効性

民法改正で明文化された原状回復義務においても、貸主借主の間で異なる原状回復義務を締結することは可能です。ただし、あまりに借主に不利な原状回復特約条項は質疑が生じます。 貸主が事業者、借主が消費者である場合、「消費者契約法第10条」に基づき無効となる可能性が高くなります。

改正民法と異なる原状回復特約締結の前提条件

  • 原状の証を残して、借主に原状を理解させることは貸主責任
    【解説】原状が貸主借主の間で明確に合意した証がありませんと「原状に復旧することが原状回復」ですから、明快な原状回復の範囲と費用が算出できません。指定業者で縛り高額な原状回復工事費にも質疑が生ずる可能性が高くなりました。
  • 原状回復回復内容を明文化して、証を残して借主に理解させることは貸主責任
    【解説】原状回復の工事内容の詳細の証を残し、借主に理解させる。特に床、壁の貼り替え、天井の全面塗装など通常損耗を借主に負担させる場合は、貸主借主ともに特約条項を熟読して理解した上で押印することです。
  • 原状回復工事を施工するために必要な間接的工事及び諸経費、特別な建物運営のルール、また官庁申請許可など詳細を明文化して証を残して、借主に理解させることは貸主責任
    【解説】通常損耗を借主に負担させる特約において、床壁の貼り替えのため表装材を撤去した際の下地の損傷は貸主、借主どちらがどんな負担割合にするのか問題が生じる可能性は高くなります。

たとえば、貸主の資産である天井を全面塗装の際、電気照明、空調換気、防災、セキュリティーが天井に設置されています。全面塗装するためには全ての設備を取り外し、再取り付けをする必要があり、その詳細と費用負担など問題になりやすいことです。
ハイグレード、Aグレードのビルインの原状回復において、仮設準備工事、各工事項目の諸経費、全体諸経費など質疑の生ずる可能性はますます高くなります。

特に諸官庁申請費用ビル運営のための中央管理室のソフトの書き換え、配線の再度の配線など大きな争点になる可能性が高くなりました。

改正民法の有効活用アドバイス

萩原

「原状回復・B工事」適正査定のパイオニアよりアドバイス

改正民法の執行は、2020年4月以降が適用となります。2020年4月以前は賃貸契約書、付随する特約が法理の基準となります。しかし裁判になった場合、改正民法の第621条の原状回復義務に対する指針は裁判判決の大きな考慮要件になると思います。普通賃貸借契約の更新の際、「改正民法を適応とする」と特記事項に一文を記しておくことをお勧めします。
※文中の解説は筆者の個人的見解であることをご理解下さい。

ADVICE ON ONE POINT

ワンポイントアドバイス

原状回復見積内訳を原状回復特約に記されている工事と記されていない工事、原状回復をやるための間接工事など分別して下さい。専門知識が必要のため原状回復を熟知した専門家に依頼して、原状回復適正査定により「ミエルカ」することをお勧めします。

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