原状回復の裏側を語る! 東証1部上場ゲーム開発会社 A社編(1)
ヒロミの部屋
交渉の裏側を物語(ストーリー)で伝える
「今回のひろみの部屋では、東証1部上場ゲーム開発会社であるA社の事例を、全4回に渡って紹介していきます」
このシリーズも、3回目になるな。ここで特に意識しているのは、原状回復費交渉の裏側を「物語(ストーリー)」で伝えるということ
「物語(ストーリー)ですか!?」
分かりやすく説明しよう。今から約4万4000年前の狩猟の様子を描いた最古の壁画がインドネシアで見つかった。一説には、その壁画は伝説上の物語を伝えようとしていたものとされているんだ
「そんな大昔から、伝達手段として、物語が使われていたんですね!」
人間は右脳でイメージを記憶し、左脳で数字や文字による記憶を行う。物語は、人間の左右の脳をバランスよく使用するから、頭に入りやすい。そのことを、太古の人類の祖先も感覚的に理解していたんだろうな
「なるほど! 子どもが絵本を読むのも、まさに、それですね」
絵本は、子どもの教育として、理にかなっているよ。絵と文字による物語を通して、子どもたちは、世界のしくみをどんどん吸収していくんだ
「奥が深いですね。それでは、今回もストーリーを意識した展開で紹介していきます」
存在しない作業工程を、見積の中に発見!
「創業10年の若い会社であるA社は、これまでいくつも人気ゲームの開発を手がけて来た会社で、業績も好調です」
新宿の本社オフィス(2フロア、約2300㎡/約700坪)から、近くに新しくできた商業施設内のオフィスに移転し、グレードアップを図ろうとした
「ビルの管理会社に退去の意向を伝えたら、最初の見積で原状回復費7700万円が提示されました。流石に高すぎると、A社は自力で値下げ交渉を試みて、5310万円まで下げました」
ビル側としては、あらかじめ値段を高く設定しておいて、大幅に値下げしてお得感を演出する作戦だろうけど、賢明なA社には通用しなかったようだな
「A社は、さらに交渉を試みますが、ビル側も頑なで、これ以上の減額が難しいと、スリーエー・コーポレーションに依頼をいただきました」
7700万円から5310万円への減額の見積交渉では、こんな提案が行われていた。「ユニット天井と照明を一式変える工事の設備や作業費用はビル側が負担するが、“塗装工事”の分だけはA社が出してくださいね」と。一見、良心的な提案だが、実は素人を騙す手口だ
「そうなんです。ユニット天井を取りつける作業工程に、そもそも“塗装工事”は存在しないんです。すぐに意見書を提出しましたが、返答は1ヵ月以上要するなど、遅々として話が進まなかったんです」
それには理由がある。今回のオフィスが入っている高層ビル・新宿マインズタワーは、証券化された高層ビルとして有名だ。交渉に時間がかかるのは、ビルの管理会社だけでなく、証券会社までからんでくるからだな
「なかなか一筋縄ではいかない話になってきましたね… 今回はここまで! 次回は、証券化されたビルならではの弱点を突いた、巧みな交渉を展開していきます」