【実例】重層構造請負体制と指定業者制度に切り込む!スーパーゼネコン相手に奮闘

【実例】重層構造請負体制と指定業者制度に切り込む!スーパーゼネコン相手に奮闘

原状回復工事費803万円削減 削減率48%
借主シンプレクス・リアリティ 驚きのパフォーマンスとは?

重層構造請負体制とは、建設業において、工事全体の総合的な管理監督機能を担う元請けから、複数の下請けを経て施工されることをいいます。

元請一次下請け、二次下請け、三次下請け、四次下請け、何の為の指定業者?と言いたくなります。

今回ご紹介する事例は、まさに重層構造が原因で原状回復費が高額に見積もられていました。

クライアントは中堅不動産デベロッパーの(株)シンプレクス・リアリティ(以下、SR社)、PMも原状回復も業務としています。

中堅不動産デベロッパーからのSOS!原状回復適正査定協議の実例紹介です。

賃借人の概要

原状回復対象面積93.8坪(B2F倉庫はクリーニング)
賃借人SR社
テナント東京都港区 S生命赤坂ビル7階
7階:310.14㎡/93.8坪(オフィス使用) 
地下2階:108.01㎡/32.7坪(倉庫使用)
計 126.5坪

賃借人の概要

賃貸人S生命保険相互会社
ビル管理業者株式会社SBM株式会社
指定業者K建設株式会社

原状回復実績

(※総額表示)

初回見積金額1,680万円
再見積1,100万円
合意金額877万円
削減額803万円
削減率48%(小数点第一位四捨五入)
敷金(預託金)3,795万円
敷金返還額2,918万円(原状回復費を敷金より差引く)
原状回復査定金額900万〜1,000万円

業務拡大のため移転を決定したSR社に多額の原状回復費の見積もりが…

SR社はコロナ禍でも業績は好調で東京の不動産は値上がりしています。今を好機と捉え業務拡大のため拡大移転を決定しました。移転元の原状回復を指定業者であるスーパーゼネコンK建設に見積を依頼したところ、初回見積で提示された金額は1,680万円でした。

SR社は不動産業ということもあり、社内に建築、設備の専門家が在籍しています。また、リフォームの協力業者も多数あり、原状回復の範囲も費用も知り尽くしています。

1,680万円という原状回復費はあまりに高額であると判断し、適正金額で工事ができないかとWEBで情報収集したところ、一般社団法人RCAA協会に相談してみることにました。

RCAA協会会員の(株)スリーエー・コーポレーション(以下、3AC)と面談し、原状回復費用の適正化について詳細説明を受け、業務委託することを決定しました。

SR社がRCAA協会を選んだ理由

SR社がRCAA協会を選んだ理由

SR社がRCAA協会を選んだ理由はふたつあります。

そのひとつが査定書の妥当性でした。

RCAA協会会員の3ACが提示した査定額は900万~1,000万円でした。この額が、先に述べたSR社内部の建築士の査定(1,000万円未満)とほぼ同額だったことから、信憑性が高いと判断したのです。

もうひとつの理由がコンプライアンスです。

弁護士法第72条で定められている非弁行為(弁護士資格のないものが報酬を得る目的で弁護士の業務を行うこと)の完全回避はSR社が発注する際の絶対条件でした。 RCAA協会では、在籍している法務担当弁護士の管理下で業務を実施し、この問題を完全回避しているため、また東京地裁でも原状回復費適正査定及び協議は非弁行為にあらずとの判決を勝ち取った実績も評価も信用できるとSR社は判断してくれました。

合意までの流れと、2つの削減ポイント

賃借人の専門家とともに現地調査を行い、原状回復根拠図書を作成。労務費、材料費、現場経費、会社利益を国交省指導の労務単価に基づいて積算し、エビデンスを作成。原状回復の定義、範囲、工事内容の明文化について改正民法第621条を考慮要件として、指定業者の目的と意義までレターを作成しました。それをビルオーナー側に提示し、2回の協議を経て、877万円で円満合意しました。

最終的な削減額は803万円48%の削減率となりました。

ここまで大きく削減できた理由としては、エビデンスの重要性ももちろんですが、このほかにも2つのポイントがあります。

ひとつは「重層構造による請負体制の弊害」、もうひとつが「他ビルとの比較」です。

個別にみていきましょう。

重層構造による請負体制の弊害

今回の事例は、PM(賃貸経営管理業務)BM(ビル管理運営)を東京BS株式会社という企業が担当し、原状回復工事は指定業者であるスーパーゼネコンが元請けになり、その下請けとして本物件の建物維持(ビルメンテナンス)の会社、電気、空調、防災、その他設備の専門業者がいるという多重下請け構造になっていました。

上記の様な請負体制はビルメンテナンスのビル運営ルールに多く見受けられますが、実質ビル管理会社、指定業者、サブコン、技能工会社という四重請負体制によって費用が高騰します。しかし、その費用は賃借人(テナント)が負担するのでオーナーはコストカットに悩むことがありません。日本においては、Aグレード、スーパーグレードビルは、全て上記の体制といっていいでしょう。これは指定業社が何社もあるのと同じです。改正民法の考え方だと紛争になれば、こんなことはまず認められません。

本来であれば、ゼネコンは協力業者の調達能力に長け、TQCをコントロールすることが期待される存在です。しかし実際問題として、下請け会社、サブコン、BM会社、技能工会社、そして元請けであるゼネコン自身の利益が原状回復費にコストオンされるので、当然ながら費用が高額になってしまうのです。

このため、費用面で賃借人(テナント)とトラブルに発展するケースが後を絶ちません。本件の構造も同じ仕組みといえます。

今回の事例では、対策として日本の建設業者の請負基準を引用しました。そこでは多重請負構造についての禁止が明記してあります。

こうした重層構造による請負体制を解消させる合理的な理由が、強力な説得力を生みます。

他ビルとの比較

本物件は、もともとのPM・BMが賃貸人の系列会社や関係の深い別会社でした。入居工事(原状変更、B工事)は、賃貸人指定業者SBM社が請け負いました。そこで、原状回復工事に同社の単価を当てはめてみたところ1,265万円でした。その上に原状回復ではスーパーゼネコンK建設がコストオンして結果1,680万円になっていました。

また、現在のビル管理会社が別のAグレードビルでPM・BMをやっているビルの原状回復の費用に当てはめると約1,100万円〜1,150万円でした。

こうした比較も、今回の原状回復費における合理性の欠如を指摘する“武器”になったのです。

この結果、賃貸人の不動産部責任者が決断し、877万円で円満合意できたわけです。

後日、原状回復工事施工中の現場を見に行きましが、元請けは指定業者だったスーパーゼネコンは外されSR社の推薦業社が施工していました。監理監修はRCAA協会の有資格者が行いました。 スーパーゼネコンを使うとどうしても工事費が高額になります。費用を適正化するため、今回はオーナーである賃貸人の判断によって指定から外れたということです。

シンプレクス・リアルティ社の担当者様コメント

削減額 803万円 敷金返還 2,198万円

1,000万円で合意できればベストと考えておりましたが、1,680万円が877万円となり驚いております。削減できた803万円は移転先の入居工事として使わせて頂きました。おかげさまで、満足のいくハイブリットワークプレイスとなりました。本件を担当して頂きました萩原様、城ノ下様本当にありがとうございました。敷金返還額も原状回復費を差し引いた2,198万円が速やかに戻ってきました。RCAA協会のご多幸を陰ながら祈願いたします。

(シンプレクス・リアルティ社の担当者 K様)

査定者の所見(執筆者 萩原 大巳)

萩原 大巳

原状回復工事の重層構造は、どう考えても時代にそぐわないものと言わざるを得ません。デジタル社会においては、囲い込むことよりも、公平・透明なオープンの時代になっています。原状回復・B工事の指定業者制度は、環境に優しいワークプレイス共創の障壁です。

以下、参考として重層構造の是正について国交省指導を紹介します。

※重層下請け構造の是正について 国交省、建設業監督部局、地方整備局都道府県は、上記是正について下記の事項を指導している。

建設業界の自主的な取り組み 元請け、一次下請け、二次下請け、三次下請、四次下請けなど、元請け、下請け業者との施工能力の重複をやめ、同じ施工能力を有する下請けより、品質、コスト、起動力、管理能力を数値化し、優良下請け企業のみ協力業者として優先発注する事により、元請け、下請けの目標設定と目標達成の取り組みの内容を徹底し可視化すること、又、同じ施工業種で一次、二次、三次、四次、元請けなど重層請負にて各階層の会社の管理、経費、営業経費がコストオンされコスト高になることは市場原理に反する。特に何らかの理由により、元請け会社、協力業者が寡占状況もしくは指定により、公正取引上優位な立場にある場合、重層請負によるコスト高を施主に負担させることを上記省庁は禁止事項として指導しております。

本実例を動画でご覧ください!

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