原状回復の裏側を語る! 東証1部上場ゲーム開発会社 A社編(2)

ヒロミの部屋

証券化されたビルとの交渉は長期化へ

「今回、東証1部上場のゲーム開発会社のA社が入居していた新宿マインズタワーは、証券化されたビルでした」

ひろみ

不動産投資信託、いわゆるREIT(リート)というやつだな。アメリカで誕生して、2000年ごろから日本でも導入された、不動産を対象にした投資信託だね

「REITの特長ってどんなところですか?」

ひろみ

これまで不動産の投資というとお金持ちしかできなかったけれど、証券化することで、小額での不動産投資が可能になる。投資する不動産を探す手間や、所有する際の面倒な手続きもなく、専門家に一任できるから気軽に始められる

「新宿マインズタワーは、証券会社が所有して、証券化して販売しているんですね。つまり、証券を購入した何百、何千といった投資家が、実質的なオーナーになるわけですか?」

ひろみ

そういうことだね。通常は、退去時の原状回復費用の交渉は、ビルのオーナーや管理会社と行うのだけれど、今回は事情が複雑だ。たくさんの投資家たちから一任されている証券会社が、投資家というオーナーの代行としてからんでくる

「『ビルの管理会社』と『証券会社』では、微妙に考え方に食い違いがありそうですね。だから返答が遅いのかぁ」

ひろみ

管理会社は、いわばビルの用心棒。証券会社は、投資家の用心棒。見ている方向が違うからね。特に、証券会社は、投資物件の損失額が一定以上出ると、投資家にニュースリリースを出さなければいけない。問題を起こすとすぐ首が飛ぶ世界だから、数字にはシビアだよね

証券化されたビルならではの弱点を突く

「今回のクライアントであるA社は、ビルの8階と9階を借りていて、その2フロアを解約しました。それぞれ2つの賃貸借契約書を見くらべると、内容が微妙に違っていたんです」

ひろみ

REITの物件は、売り買いがよく行われるから、持ち主が変わりやすい。同じビルでも、階によって持ち主が変わるなんてこともよくある。だから、同じビルなのに、賃貸借契約書の内容が違うなんてことが起きるんだ

「今回は、8階の賃貸借契約書には、原状回復にかかわる内容が記載されていたのに、9階の方には、原状回復にかかわる内容が記載されていなかったんです」

ひろみ

賃貸借契約書に記載のない原状回復工事は、一切やる必要はない。同じビルなのに内容が違うのは、証券化されたビルならではのミス、まさに弱点を突いた形になった

「それにしても、メールや電話での連絡をするごとに、その返答が1ヵ月後。これでは、オフィス退去の期限内に、原状回復費の合意に至るのは厳しいかもしれません」

ひろみ

うむ。決められた日までに退去できないと、遅延違約金が発生してしまうからなぁ。新たな対策を打つ必要がある

「今回はここまで! 次回は、遅延違約金が発生するリスクがある中、ビル側に新たな提案をもちかけ、巧みにリスクを回避します」