原状回復の裏側を語る! 東証1部上場ゲーム開発会社 A社編(3)

ヒロミの部屋

契約満了前に、「敷金返還請求」を突きつける

「ビル側の返答が遅いために、原状回復費の交渉が長期化する様相が見えてきました。ここで問題になるのが、契約満了日まで退去しないことによって、賃借人に発生する遅延損害金(家賃のおよそ2倍)です」

ひろみ

このままずるずる長引くと、原状回復工事に取り掛かれないので、あちらさんも、次の入居者を受け入れられなくなるから困るよな

「お互いにリスクを回避する対策が必要です。そこで、原状回復費の交渉は進めつつも、入居時にビル側に払っている敷金を一旦戻してもらう要求をする、「敷金返還請求」をすることにしました」

ひろみ

提案すると、管理会社の担当は「上席に相談します……」と逃げ腰だったから、「それなら遅延損害金が発生したらおたくが払ってくださいね」と迫ると、渋々、この条件を飲んだ

「これで晴れてA社は次のオフィスに移転することができ、ビル側も具体的な原状回復費の額面は保留でありながらも、原状回復工事の発注をして工事を進めることができました。」

ひろみ

原状回復費が決まる前に、賃借人に敷金が返還されるのは、異例のケース。この交渉で、こちらは心理的にも優位に立った。どれだけ交渉を引き延ばされても、じっくり腰を据えて取り組めるからね

「今回の敷金は1億4182万円でしたが、ビル側も敷金を全額返してしまった後で、高い金額の請求はしづらくなりますよね」

半年の期間を経て、交渉の最終段階へ

「今回は、架空見積もりや賃貸借契約書の問題点などを指摘しながら減額を試みました。さらに、入居後に賃借人が設置した部分(デスク、パーテーションなど)を撤去するC工事も、こちらで手配した業者に依頼することにしました」

ひろみ

ビルの指定業者の仕事を、一部こちらで引き取り、適正な金額で発注することで、費用を大幅に削減できる

「粘り強く交渉を続け、半年の期間を経て、ようやく最終段階にこぎつけました」

ひろみ

ここからは弁護士の仕事だ。我々が、法律をかかげて交渉したり、和解させたりしてしまうと、弁護士法72条にある「非弁行為」にあたってしまうからね

「これまで原状回復費を下げるために集めて来た情報を我々の弁護士に託し、賃借人と賃貸人の弁護士同士で原状回復費を決める最終段階の話し合いをします」

ひろみ

ちなみに、原状回復費の交渉における最終段階には、選択肢がある。それは、裁判をするか、しないか、という選択だ

「今回は、初回見積7700万円で、値下げして5310万円となっていましたが、強気で裁判までもっていき勝てば3000万円以下にすることも不可能ではない状況でした」

ひろみ

法廷闘争の費用、それに要する時間と労力まで考えて、メリットが大きければ決断する価値はあるということだ

「今回はここまで! 果たして法廷闘争に突入するのか? 最終合意金額はいくらになるのか? 次回、原状回復費の交渉が決着します」