【第11回】改正民法「敷金の定義の明文化と敷金返還時期の明文化」

【改正民法】敷金の定義の明文化と敷金返還時期の明文化

「敷金の定義」の明文化

今回の民法改正では、敷金とは「いかなる名目よるかを問わず、賃料債務、その他賃貸借契約に基づく借主の債務不履行を担保することを目的とした預託金を敷金」と定義しました。

【第622条の2第1項】
賃貸人は、敷金(いかなる名目によるかを問わず、賃料債務その他の賃貸借に基づいて生ずる賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務を担保する目的で、 賃借人が賃貸人に交付する金銭をいう。以下この条において同じ。)を受け取っている場合において、次に掲げるときは、賃借人に対し、その受け取った敷金の額から賃貸借に基づいて生じた賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務の額を控除した残額を返還しなければならない。
一 賃貸借が終了し、かつ、賃貸物の返還を受けたとき。
二 賃借人が適法に賃借権を譲り渡したとき。

引用:民法622条の2第1項(敷金)

この定義によると家賃や原状回復費用、借主が消費した電気水道費などの支払いを担保するための預託金が敷金となります。保証金も名目は違いますが、敷金の定義となります。

礼金は賃貸物件を貸して頂いたお礼として、借主が貸主に渡す金銭と位置付けています。したがって、借主の債務をすべて支払い、原状回復義務を履行しても、敷金と違い返還の対象になりません。

敷金とは賃貸借契約を理解して、債務不履行を担保する目的の「敷金」、また「預託金」であるか否が重要となります

権利金、建設協力金、保証金など呼び名は違いますが、家賃などの債務不履行を担保する目的の預託金であれば法理では敷金の扱いとなります。また敷金の償却とか質疑が生じるリスクが高くなりました。

敷金返還時期の明文化

改正民法では借主が契約書を遵守して債務を全て履行した時は、貸主は敷金返還の債務が発生すると明文化されました。上記の「民法622条の2第1項」の引用を見ますと、借主が以下の事項を履行した時、敷金返還の債務が貸主に発生します。

多くの場合、上記一が対象となります。賃貸借契約が終了しても、敷金は返還されません。借主の所有する物は全て撤去して、物件を貸主に確認してもらい明渡しをしませんと、借主が退去したことにはなりません。私物を残置したままですと、新たな賃料が発生する事もあります。ご注意して下さい。


上記二は、貸主の承諾を受け新たな借主が賃貸借契約を引継ぐ場合のことを指します。最近見受けられる借主の株式が売買され新たな会社に経営を譲渡された。また、新たな借主が居抜きで賃借権を引き継いだなどのケースを指します。ほとんどのケースでは、貸主と新たな借主の間で再度賃貸借契約を締結します。

敷金返還債務発生前の敷金の効力の明文化

民法622条の2第2項
賃貸人は、賃借人が賃貸借に基づいて生じた金銭の給付を目的とする債務を履行しないときは、敷金をその債務の弁済に充てることができる。この場合において、賃借人は、賃貸人に対し、敷金をその債務の弁済に充てることを請求することができない。

引用:民法622条の2第2項(敷金)

借主が賃貸借契約に基づいた債務を履行しないときは、又履行できない時は敷金を借主の承諾なしに債務の弁済に充当できる貸主の権利を指します。しかし、借主の債務を「お金が厳しいので家賃を敷金で充当して下さい」など、借主は貸主に要求する権利はありません。

明渡しの際、原状回復費用の支払いが厳しいときなどは真摯に貸主にお願いをして、敷引きの承諾を受けましょう。また最近多いのがコロナ禍による賃料滞納です。賃貸借契約解除要件の対象となる3か月以上の賃料滞納など弁済計画を立て、貸主と真摯に話し合いをして下さい。「敷金が10カ月も預託してあるからと大丈夫!」と安易に考え、不誠実な対応をすると契約解除退去勧告を通知されるというケースが増えております。

まとめ

原状回復義務も敷金も民法改正で明文化されました。賃貸借契約が日本の法律を基準としている場合、明渡しに伴う原状回復義務が契約書に記されています。 原状回復義務を履行しても借主の債務を全て履行しませんと、敷金返還請求権は発生しません。特に事業用賃貸借契約では、原状回復工事は貸主の指定する業者で施工する (指定業者制度)と記されているケースがほとんどです。工事費が高額であったり、工期が長く明渡し遅延損害金の対象になったりとトラブルが多発しています。最近でもっとも多いトラブルは、原状回復の建築資材発注後、納期が2カ月、3カ月も見受けられます。また原状回復費も高騰しています。悩む前に原状回復の法理のわかる建築士、宅建士に早めにご相談することをおすすめします。