【第9回】通常損耗を含めた原状回復義務の特約Ⅴ ~東京高裁平成12年12月27日判決その2~
教えて!横粂先生
【東京高裁判決の要旨】オフィスにおいて、通常損耗を借主に負担させることを認めた原状回復特約の基礎事情とは
前のテーマで取り上げた裁判例についてもう一つ着目すべき点があると考えています。この裁判例は、上述のように最高裁判所第二小法廷判決平成17年12月16日と基本的なスタンスを同じくしながらも、オフィスビルの賃貸借契約における原状回復の特約について有効である判断したものです。では、なにが賃貸住宅とは異なる考慮要素なのでしょうか。
まず、東京高等裁判所は、「一般に、オフィスビルの賃貸借においては、次の賃借人に賃貸する必要から、契約終了に際し、賃借人に賃貸物件のクロスや床板、照明器具などを取り替え、場合によっては天井を塗り替えることまでの原状回復義務を課する旨の特約が付される場合が多いことが認められる。オフィスビルの原状回復費用の額は、賃借人の建物の使用方法によっても異なり、損耗の状況によっては相当高額になることがあるが、使用方法によって異なる原状回復費用は賃借人の負担とするのが相当であることが、かかる特約がなされる理由である。もしそうしない場合には、右のような原状回復費用は自ら賃料の額に反映し、賃料額の高騰につながるだけでなく、賃借人が入居している期間は専ら賃借人側の事情によって左右され、賃貸人においてこれを予測することは困難であるため、適正な原状回復費用をあらかじめ賃料に含めて徴収することは現実的には不可能であることから、原状回復費用を賃料に含めないで、賃借人が退去する際に賃借時と同等の状態にまで原状回復させる義務を負わせる旨の特約を定めることは、経済的にも合理性があると考えられる。」とし、オフィスビルの賃貸借が賃貸住宅とは異なり、経済的合理性が重視されると判示しています。
また、賃借人側が主張した民間賃貸住宅において賃借人が通常の使用に伴い生じた損耗についての原状回復義務を負わないとする旧建設省の通達につき、当該通達における「条項は、居住者である賃借人の保護を目的として定められたものであることが明らかであって、市場性原理と経済合理性の支配するオフィスビルの賃貸借に妥当するものとは考えられない。」としているのです。
この裁判例は、その他契約上の文言等も考慮した上で原状回復特約を有効と判断しました。オフィスビルにおいてはビジネス上の経済的合理性の観点から、原状回復特約を締結するに当たってその前提状況が賃貸住宅とオフィスでは異なることに言及している点で、この裁判例は重要と考えられます。
参考文献
判例タイムズNo.1095 176頁以下
ADVICE ON ONE POINT
ワンポイントアドバイス
賃貸住宅とオフィスの賃貸では、その社会的効用の面の差から、オフィスビルにおいては市場性原理と経済合理性の観点が原状回復特約の有効性判断の基礎事情に加えられるとの考え方もあるようです。
東京高裁判決を事業用賃貸不動産において拡大解釈され、原状回復費高騰問題が多発している!!
「原状回復・B工事」適正査定のパイオニアよりアドバイス
2000年 (平成12年)当時の100坪以上のAグレードビルの原状回復費用の平均坪単価は、48,000円だった。2021年のRCAA協会の調査によると原状回復費用の平均単価は、99,000円である。
スーパーグレードビルの原状回復費用は、200,000円を超える見積も多く見受けられる。これは入居工事(原状変更)をどこまで内装工事のグレードを上げるのかで大きな金額の差になります。
また最近の大型ビルはインテリジェント化しており、基準階使用の電気、空調換気防災、セキュリティーその他設備工事の移設、増設、除去をテナントの要望でデザイン設計に伴うB工事の工事費高騰問題を引き起こしている。海外では原状回復義務はなく、敷金も我が国ほど一律10カ月とか高額ではありません。
100人いれば100通りの働き方がある現在、移転元の原状回復、移転先のB工事、それも独占的地位の指定業者、敷金返還までをゼロから見直す時期にきているのです。