【第1回】 賃貸借契約終了時の賃借人の原状回復義務Ⅰ~賃借物件に付加した付属物の撤去~

教えて!横粂先生

法律(民法)では、賃借人が賃貸借契約終了後、借りる前の状況(原状)に戻す義務(回復する義務)があるか否かについて明言されていません。民法上の文言は、借主の付属物を収去する権利は規定していますが、義務とはしていないのです(民法616条、598条)。

2020年4月より執行された改正民法では原状回復義務を明文化賃借人に理解させる事は賃貸人の責任となりました。

では、法律上、賃借人が賃貸物件を賃借していた状態のままで放置して退去することを許しているかというとそうではありません。

古くから裁判所や法学者は、民法の解釈上、賃借人は賃借人が賃貸借契約終了時に原状回復する義務として付属物を取り除く義務が認められていると考えています。

基本に立ち返って賃貸借契約とはどんな契約なのかを考えてみましょう。

賃貸借契約は、賃貸人が自己の所有または管理する賃貸物件を賃借人に使用又は収益させることで、代わりに賃借人から対価(賃料)を貰う契約です。しかし、賃貸借契約が終了すれば、以後賃借人は賃貸物件を使用することはできませんし、賃貸人は新たな賃借人を探し再度賃貸物件を貸し出すことになります。

このように、その賃貸物件を新たな賃借人に使用させ、収益させるためには、新たな賃貸借契約に邪魔となるものは旧賃借人に取り除かせなければいけませんし、借りた時の状態で引き渡すところまで含めて貸したものを返してもらうということだと考えるのです。

つまり、賃借人は賃貸借契約終了後には、賃貸人の賃貸物件に対する権利(所有権や管理権)を侵害しないようにしなければならないのです。

ADVICE ON ONE POINT

ワンポイントアドバイス

賃貸借契約終了後に賃借人としてどこまですべき義務があるのかには注意が必要です。「賃貸借契約がどういった契約なのか」から考えると分かりやすいですね。

「原状回復義務」を賃貸契約で確認して下さい‼︎

萩原

「原状回復・B工事」適正査定のパイオニアよりアドバイス

賃貸借契約終了後に賃借人として、どこまで原状回復すべき義務があるのかに注意が必要です。「賃貸借契約がどういった契約なのか?」を原状回復特約[*1}の内容から考えるとわかりやすいですね。

[*1]原状回復特約とは、賃貸契約を結ぶ際に使用する契約書に『原状回復における貸主と借主双方の負担割合』を記載した内容のこと。

【解説】「原状回復義務」とは?

「原状回復義務」とは、賃貸借契約終了時に貸室の損耗を原状に復旧する賃借人の法的義務です。

民間賃貸住宅では、「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」より経年劣化、経年変化、通常損耗[*2]の負担において、借主にはありません。ただし、特別損耗[*3]の負担は、借主の債務です。

事業用不動産では、「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」は適用外となります。なぜなら、賃貸契約書に原状を明確にされており、その原状に復旧する貸主の義務が原状回復義務であり、原状回復工事となるからです。通常損耗に関わりなく新品に張り替えることを原状回復特約により明文化されている賃貸契約が一般的となってます。

よって、賃貸契約の原状回復特約に記されていることが「原状回復義務」です。

[*2]通常損耗とは、入居者が通常の生活を送る中でやむ得ず発生してしまう床や壁などの痛みや損傷のこと。
[*3]特別損耗とは、入居者が故意につけた傷や通常の清掃を怠ったことで発生してしまった汚れのこと。

解説 「収去権」とは?

「収去権」とは、賃借物に不可した付属物の撤去を指します。改正民法第599条の1項、第622条の2項では、借主は借用物を受け取った後にこれに付属した物がある場合において、使用貸借が終了した時はその付属させた物を収去する義務を負うとされています。ただし分離することができない物、過分の費用を要する物についてはこの限りではないとされています。建築業界では、C工事解体と呼ばれており、付属物の所有権は借主にあります。特別な場合を除き、借り主の依頼した業者で解体撤去ができます。

【改正後民法】

(借主による収去等)

第599条

1 借主は、借用物を受け取った後にこれに附属させた物がある場合において、使用貸借が終了したときは、その附属させた物を収去する義務を負う。ただし、借用物から分離することができない物又は分離するのに過分の費用を要する物については、この限りでない。

(敷金)

第622条

2 賃貸人は、賃借人が賃貸借に基づいて生じた金銭の給付を目的とする債務を履行しないときは、敷金をその債務の弁済に充てることができる。この場合において、賃借人は、賃貸人に対し、敷金をその債務の弁済に充てることを請求することができない。       

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