【第6回】通常損耗を含めた原状回復義務の特約Ⅱ ~有効性の判断基準:最高裁判所第二小法廷判決平成17年12月16日~

教えて!横粂先生

原状回復特約で貸主に不利益な通常損耗の貸主負担、特別損耗は明文化すること‼︎

では、通常損耗までも含めた原状回復義務を定めた特約は、全て有効なのでしょうか。

賃貸人が賃借人に対し、特定優良賃貸住宅の賃貸借契約の解除及び明渡後に、敷金から通常の使用に伴う損耗(いわゆる「通常損耗」)の補修費を含む金額を特約に基づき差し引いた残額を返還したところ、賃借人が未返還の敷金及び遅延損害金の支払いを請求した事案で、最高裁判所は以下の判決の要旨のようにいっています。

(判決の要旨)
「賃借人が補修費用を負担することになる通常損耗の範囲が賃貸借契約書の条項自体に具体的に明記されているか、仮に賃貸借契約書では明らかでない場合には、賃貸人が口頭により説明し、賃借人がその旨を明確に認識し、それを合意の内容としたものと認められるなど、その旨の特約(以下「通常損耗補修特約」という。)が明確に合意されていることが必要であると解するのが相当である。」

大分抜粋しましたが、裁判所の考え方としては、本来は賃料に付加される形で前払いされているはずの通常損耗の補修費用を、後から賃借人から受け取るというイレギュラーな契約をするのであれば、本当に賃借人がそういった不利益を受けることに納得して特約を締結しているか厳しく判断して、特約の有効性を判断しますよといっているのです。

参考文献
判例タイムズNo.1200 127頁以下
島田佳子「建物賃貸借契約終了時における賃借人の原状回復義務について」判例タイムズNo.1217 56頁以下

ADVICE ON ONE POINT

ワンポイントアドバイス

最高裁の根本的な考え方は、「本当に納得して契約を締結しているか否か」にあるのでしょう。不利益を受ける恐れがある賃借人には特約の内容をしっかり説明し、証を残すことを貸主責任としました。改正民法ではより明確に原状回復の説明責任、情報開示、賃借人はその内容を理解した「証」を残すことは賃貸人責任となりました。

【解説】最高裁判決は原状回復の指針…特約に明記したからすべての事項が法理で認められるわけではない

萩原

「原状回復・B工事」適正査定のパイオニアよりアドバイス

2020年4月改正民法が執行されました。原状回復に関する事は最高裁判決を基準としています。

本来賃貸契約において、「通常損耗は家賃に含まれている」という考え方です。(民法の原則)しかるに使用用途が異なる事業用賃貸では不特定多数が出入りするため、損耗の程度が異なります。

立地が良くビルのグレードがハイスペックの場合は家賃も高額ですし、原状回復特約も貸主に優位になっています。通常損耗はおろか床、壁、天井全て新品に貼り替える、ブラインドも新規取り替え、電気空調換気防災その他設備も生産中止の時は全て最新の設備に新規取替え、契約自由の原則とはいえ貸主の資産となります。

建築設備は全て新品の環境対応に取り替え、インテリジェントビルは中央管理室のソフト工事まで原状回復の範囲です。そんな原状回復特約が法的に有効とは一概に言えません。これは専門家でも弁護士でも難しいのが現実です。実績のある専門会社の有資格者に相談することをお勧めします。

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