【第8回】通常損耗を含めた原状回復義務の特約Ⅳ ~東京高裁平成12年12月27日判決その1~

教えて!横粂先生

オフィスビルの賃貸借契約における原状回復の特約(「本契約が終了するときは、乙(賃借人)は賃貸借期間終了までに第八条による造作その他を本契約締結時の原状に回復しなければならない。但し、甲(賃貸人)の書面による承諾があるときは、設置した造作その他を無償で残置し、本物件を甲に明け渡すことができる。」)に基づき、賃借人が退去に当たって通常損耗分も原状回復する義務を負うか争われた事案です。

この事案で東京高等裁判所は、「本件原状回復条項は、前記のような文言自体及び造作等に関する特約の内容に照らして、造作その他の撤去にとどまらず、賃貸物件である本件建物を「本契約締結時の原状に回復」することまで要求していることが明らかであるから、被控訴人らに対し、控訴人らから本件建物を賃借した時点における原状に回復する義務を課したものと解するのが相当である。」と判示し、原状回復をする特約に基づき、通常の使用による損耗、汚損をも除去し、本件建物を賃借当時の状態にまで原状回復して返還する義務があるとしました。

この裁判例は、前述の最高裁判所第二小法廷判決平成17年12月16日より前の判断ですが、オフィスに関して賃貸人と賃借人が通常損耗まで含む原状回復特約につき、賃貸借契約書上の記載内容や造作及び諸設備の新設・撤去・変更に関する規定方法からいって、通常損耗も含めて賃借人の負担で修繕することを賃貸借契約締結時に納得のうえ了承していたと判断されたものといえ、その意味では最高裁判所第二小法廷判決平成17年12月16日の判断とは矛盾しないのではないでしょうか。

参考文献
判例タイムズNo.1095 176頁以下

ADVICE ON ONE POINT

ワンポイントアドバイス

通常損耗も含めた原状回復義務を負うかについては、契約書の文言等から契約時に賃借人がこれを納得のうえ承諾していたと判断される場合があり、注意が必要です。

【解説】オフィス原状回復、借りた時の[原状]に回復する原状回復特約は通常損耗も含めて借主負担とする

萩原

「原状回復・B工事」適正査定のパイオニアよりアドバイス

平成12年の東京高裁判決の要旨が事業用賃貸契約の原状回復基準です。原状回復特約に床、壁の全面貼り替え、天井の全面塗装、借主の造作撤去に伴う床壁天井の特別損耗の復旧、電気、空調換気、防災、セキュリティの移設、増設、除去の基準階使用「原状」に復旧も全て原状回復義務となります。

改正民法では、より明確に原状回復義務の詳細を明文化、借主に理解させることは貸主責任とされました。

入居工事「原状変更」を含め原状回復、資産除去債務迄査定できる専門家、ワークプレイスストラテジストに相談することをお勧めします。

ポイント

事業用賃貸の場合通常損耗も含めた原状回復義務を負うかについては、契約書の文言等から契約時に賃借人がこれを納得のうえ承諾していたと判断されます。賃貸借契約の原状回復義務、指定業者による独占的な制度、原状回復特約敷金返還など契約書、原状回復特約など熟読し理解して納得のうえ押印して下さい。

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