【第7回】通常損耗を含めた原状回復義務の特約Ⅲ~大阪高裁平成12年8月22日判決~

教えて!横粂先生

この裁判例は、貸室の賃借人が賃貸人に敷金の返還を請求したのに対し、賃貸人が原状回復費用との相殺を主張した事案です。

この事案で、賃貸借契約書には、「賃借人は、「本契約が終了した時は」賃借人の「費用をもって本物件を当初契約時の原状に復旧させ、」賃貸人に「明渡さなければならない。」との規定(以下、「本件規定」といいます)があり、かつ、賃借人も署名押印した覚書には「本物件の解約明渡時に、」賃借人は、本件規定により、「本物件を当初の契約時の状態に復旧させるため、クロス、建具、畳、フロア等の張り替え費用及び設備器具の修理代金を実費にて精算されることになります。」との記載がありました。さらに、賃貸の仲介人から賃借人が渡された資料には、明渡後に必要となる修理費用等の目安を記載した書面が入っていました。

このような事案で、大阪高裁は、本件規定の文言は、「契約時の原状に復旧させ」というものであるから、契約終了時の賃借人の一般的な原状回復義務「を規定したものとしか読むことができない。右契約条項には、賃借人が通常の使用による減価も負担する旨は規定していないから、そのような条項と考えることは出来ない。」と判示しました。また、上述の覚書は特別損耗を賃借人負担とすることを定めたものであり、かつ修理費用等の目安となる資料の交付は賃貸人賃借人間の合意を形成しないとし、賃借人は通常損耗の修繕費を負担しないと判示しました。

前述の平成17年最高裁判決より前の裁判例ですが、契約当事者の意思解釈から、賃借人が通常損耗の負担についてまで合意していたとは解釈できないと判示されており、原則的には通常損耗の負担は賃貸人とし、それと異なる合意の有無を検討しているという点で基本的な考え方は同一と考えられます。

参考文献
判例タイムズNo.1067 209頁以下

ADVICE ON ONE POINT

ワンポイントアドバイス

裁判例では賃借人が通常の使用による減価も負担する旨は規定していないと判示されており、明確に通常損耗も負担するとの規定がないなど賃借人負担とする合理的理由がない限り通常損耗まで賃借人が負担することはないと考えられます。

【解説】住居使用の原状回復において、特約に借主の通常損耗負担を明記しても有効とはいえない

萩原

「原状回復・B工事」適正査定のパイオニアよりアドバイス

事業用不動産と違い、住居使用の原状回復義務は特約にて通常損耗の借主負担を記しても、裁判では「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」が基準になります。また特別損耗についても合理的理由がない限り、新規取り替えは認められないと考えます。修繕、補修が不可能で新規取り替えの場合でも法定償却は考慮されます。(民法の原則)

通常損耗負担を借主に負担させる特約は無効になる可能性が高いです。また「消費者契約法10条」においても無効と考えます。

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