オフィス・事務所・店舗などテナントの原状回復工事において、ビルオーナ側は貸すことそのものを事業としているため賃貸について詳しく勉強しています。
一方で、借主側はそうではありません。オフィスや店舗を借りることはあくまで事業のための手段であり、賃貸そのものについては専門的な知識がない場合も多いと思います。
両社にそのような差がある為、借主側が言われたとおりにするしかないと思ってしまう弱みにつけこんで、原状回復の際に、オーナーや業者によっては高額請求を行うことがあります。
高額請求の中身としては、原状回復において適正価格以上の費用がかかってしまっているなど、借主が本来の義務以上の内容を責任として負担させられていることがあります。
具体的にはどのようなケースがあるのでしょうか?
<想定外の不当な高額請求が横行する原状回復>
①原状回復のはずがまさかのグレードアップ!?
②そもそも原状回復の義務がある範囲とは?
①原状回復のはずがまさかのグレードアップ!?
原状回復の意味は、借りた時の状態を<原状>ということなのですが、このとき、オーナー側からは元よりも良い状態にするグレードアップ工事が要求されている場合があります。
例えば、以下のような例です。
<グレードアップ工事の例>
・カーペットや壁紙の張り替えにおいて、入居時よりも品質と費用の高いものが指定される。
・普通の便座であったトイレを、暖房便座や洗浄機能付きの便座に交換するよう要求される。
・旧型の蛍光灯が、高性能なLEDシーリングライトに取り換えさせられる。
・電気、空調、その他設備が、環境に優しい省エネ商品で見積られている。
このようなことが、借主側に何の説明もなく、また特別の了承を得ることもなくあっさりと原状回復工事の内容に含まれていることがあるのです。それは、原状が15年以上経過している場合、建材商品がすでに廃盤となり、生産がされていないからです。築浅10年の物件に5年入居していれば、原状は15年前という事になります。
しかし、これらは原状回復を逸脱した、いわゆるぼったくりとも言うべきグレードアップ工事になります。
借主側がこのような点に気づいて追及した場合
「時代の流れに合った設備に交換する必要があった」
「以前のものでは、耐久性が低いことがわかったので」
「以前のものは、廃盤で生産中止である」
などの理由が説明されることもありますが、そのような理由で行われるグレードアップ工事は、借主が負担するべきものではなく、オーナー側が自らの負担で行うべきものになります。
今時の整備で、綺麗に状態を良くしてから新規募集をかけたいというのはオーナー側の都合でしかありません。
どうしても原状回復工事を機に設備のグレードアップをしたいのであれば、借主側には原状回復の為にかかる費用相当分だけの負担を求め、過剰になる分の費用については、オーナー側で支払うなどお交渉が行われるべきです。(原状回復負担金協議)
元々の仕様・機能を更に良くする為の工事を借主に負担させることは、不当利益の搾取に他なりません。
②そもそも原状回復の義務がある範囲とは?
グレードアップは、借主に本来義務ではないはずの負担を強いる不当利益の搾取行為です。
しかし、そもそも原状回復で言うところの「もとの状態に戻す」というのは、実は、入居したときそのままの状態にまで戻すという意味ですらないはずなのです。
原状回復で借主が行うべきことは、故意・過失によって発生した損耗を修繕し、また、入居にあたって増設・移設など変更を加えた箇所を元に戻すことです。
自然に発生した経年劣化や通常損耗については、原状回復に費用を負担する必要はありません。なぜなら、普通に使っていて当然発生するそれらの損耗の対価は、本来賃料の中に含まれているはずだからです。
ただし、予め特約により、それらについても修繕する義務が定められていた場合などは別となりますので注意が必要です。それ以外の場合は、経年劣化や通常損耗にあたる部分の工事費を支払う必要はないのです。(原状回復特約を確認してください)
この記事を書いた人
-
コンサルタント 萩原 大巳
【査定実績日本No.1 実績600社超のMr.原状回復】
オフィス、店舗の移転および統廃合計画の責任者として、500社以上の実績がある。現在、大手消費者金融、銀行などの技術嘱託として活躍。プロジェクトマネージャーとして、原状回復の適正査定、AB工事の適正査定協議では600社超の実績があり、査定実績、日本No.1の専門家である。施工不良、敷金、保証金返還トラブル相談など、日々、企業の法務相談に多忙である。IFRS資産除去債務、環境債務の処理方法等について大手監査法人の主催にて講演を行っている。

ADVICE
ON ONE POINT
ワンポイントアドバイス
不当な高額請求をされていることに気づかずに、請求書のままに必要以上の原状回復工事費用を支払っているケースが世の中にはたくさんあります。
それらを洗い出し、指摘することは、根拠のない値切り交渉やクレームとは違いますので、工事の内容・その必要性など、きちんと詳細を明らかにして、自分の負担すべき費用だけをきっちり支払いましょう。